きっと人生で、はじめてで、それきりの経験だった

2018.12.20

指定されたバーの扉を開けた先にいたのは、少し強面の4人の男子と、それぞれに個性がある3人の女子だった。

その中には何人か知り合いもいたけれど、その誰もが「少し話したことがある」程度だったので、1人を除く全員が、私にとってほぼ初対面だった。

「これで全員やな」と、唯一の友達であるGくんが口を開く。
「これが、今回のツアーのメンバー。13日間、ずっと一緒にいるから。よろしく」

人生初海外、タイとカンボジアへのバックパックツアーの出発は、約1週間後に迫っていた。

大学2年生の頃、私はとにかく「新しい世界を見るんだ」とやっきになっていた時期があった。なぜ大学2年生かというと、大学2年生は「20歳になる学年」だったから。私の実家は親が厳しく、門限やバイト禁止などのルールが細かくあったのだけれど、「20歳になったら自由にしなさい」という不思議なルールも同時にあった。

だから私は大学2年生の誕生日がきて20歳になるや否や、「ようやく自由だ」と言わんばかりに、いろんなアルバイトをはじめたり、お店で夜な夜な飲むようになったり、友達や彼氏と旅行したりするようになった(逆にいえば、それまでそれらを経験したことがなかった)。今まで私が見たことのない世界を、今まで周りの友達が見てきたであろう世界を見なきゃいけない、と謎にやっきになっていた。考えてみればこの旅は、その時期に突入した一番最初の出来事だったかもしれない。

旅に行くことになったきっかけは、前述のGくんだった。

大学1年生の時、興味本位で入ったフットサルサークルで仲良くなったGくんは、普段からバックパッカーをしていて、世界中のいろんな場所を一人で旅していた。名前も聞いたことのないような国での波乱万丈な出来事を本人の巧みな話術で聞いたり、SNSに上がってくるウユニ塩湖だとかオーロラだとかの写真を見たりするたびに心からすごいなぁと思ったし、私はGくんのことを、なんだかとても大人のように感じていた。

そんなGくんが、ある日Twitterでこんなことを呟いていた。「今度、タイとカンボジアを俺が案内するツアーをしようと思うねんけど、来たい人いる?」

私は何も考えないまま「行きたい!」とリプライを送っていた。海外なんて行ったことがなかったし、まだその時は20歳にもなっていなかったので親に許可をもらえるかすらもわからなかった。けれど、なぜか「今行かなきゃ」という本能みたいなものが働いたのだ。

なんせ門限があったような私だ。実家を10日以上離れること自体が人生はじめての経験である。パスポートとやらを取得することも、飛行機に10時間以上乗ることも、友達と門限を気にせず遊べることも、私にとってはすべてが刺激的で、大人への階段を登っているかのような気持ちだった。

「今回はバックパック旅だから、必要なものは全部現地調達する。リュックと身一つだけで来て」と言われたときには少し驚いた。服も、化粧品も、身だしなみを整えるものはほとんど持っていかなかった。持って行ったのは何着かの下着と、芯を抜いたトイレットペーパーと、ほんの少しのエトセトラ。そんな身も心も「素」の状態で朝から晩まで一緒にいたので、一緒にツアーに行った仲間たちとはすぐに打ち解けた。

泊まったのはタイのカオサンロードにある1泊1000円ほどの安いゲストハウス。夜中にネオンが光る街の中をトゥクトゥクで駆け抜け、何がおもしろいのかわからないけれど、毎日ひたすらお腹がよじれるほどに笑っていた。人生初めてバイクの後ろに乗せてもらったりもしたし、現地の人たちとバーベキューをしたりもした(案の定、お腹を壊した)。

タイからカンボジアへの移動は陸路だった。10時間ほど列車に乗り、その列車の一番後ろで、私は今まで辿って来た、どこまでも続いていく長い線路をぼーっと眺めていた。国境でビザを取得するときに迷彩柄の服を来た軍人さん(?)が本物の銃を持っていたのを見たときには、足がすくんだっけなあ。

カンボジアでは、Gくんが毎年必ず行くという現地の学校に連れて行ってもらって、学生さんたちと交流をした。そこには、私が当時思っていた「カンボジアの子どもは貧しく辛い思いをしている」という偏見にまみれた想像をいともかんたんに壊してくれるような、楽しそうな子どもたちの姿がそこにあった。



途中でお腹を壊したり、40度の熱を出したり、ほかにもいろいろなハプニングはあったけれど、特に大きな事故や怪我もなく、無事に13日間のバックパックの旅は終わりを告げた。

さて、箱入り娘だった私がはじめて海外に行って、価値観や何かが変わったことがあるか?

そう聞かれれば、「別にない」というのが答えである。「こんな世界があったんだ」と、自分の中の世界は広がったけれど、それがきっかけで何か自分が劇的に変わったかと聞かれると、首を縦には振れない。バックパックと言えどGくんが案内をしてくれたから道に迷うこともなかったし、安全は確保してくれていたので、本当の意味での「旅」ではなかったのも理由の一つとしてあると思う。

けれどひとつだけ言えるとするならば、私のあのときした経験は、人生で、はじめてで、それきりの経験だったんだろうな、ということ。もう2度とすることがないであろう、いつまでも色褪せることなく残っている、若いからこそできた唯一無二の体験。こういった経験をさせてくれたGくんには心から感謝をしているし、あのとき一緒に旅に出かけた7人のメンバーとは、今でもたまーに連絡を取り合う。

大人になるにつれて、「またか」と思うような既視感のある経験は増えていくような気がする。日々出くわすいろんな出来事に対して「この感じ、なんだか味わったことあるなあ」と思うことが増えていき、子どもの頃に味わったような「新鮮さ」を得られる経験は、少しずつ、少しずつ減っていく。

けれどそんな中にもごくたまに「人生で、はじめてで、きっとこれきりなんだろうな」と思えるような瞬間がある。もう二度と同じ経験をできないと思えるような、唯一無二のもの。そしてそんな経験を、私はこれからも増やしていきたいと思っている。

大学2年生の時に生まれた好奇心は、私の人生を今も豊かなものにしてくれている。「あんな経験は、きっと人生ではじめてで、二度とできない、それきりだよ」と言えるような体験を、いつまでも増やしていけるような大人でありたいな、と私は今も思っている。

ライター

あかしゆか

1992年生まれ、 京都出身。 2015年に新卒でサイボウズに入社し、 1年半製品プロモーションの経験を経たのちコーポレートブランディング部へ異動。 現在は「サイボウズ式」の企画編集や、 企業ブランディングのためのコンテンツ制作を担当している。 2018年1月から複業でフリーランスの編集者/ライターとしても活動を行っている。Webコンテンツの編集ライティングに加え、今年は書籍の企画編集にも挑戦中。

Twitter:https://twitter.com/akyska

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