たまたま訪れた国で出会ったのは唯一無二の「親友」だった

2018.12.23

聞きなれない言葉。見慣れない文字。
あふれる情報に戸惑っている自分を意識して、はじめて、緊張している自分に気づく。
9か月勉強してきたばずのドイツ語は、現地の人が話すと早くて聞き取れず、発音が悪いのか私が話しても全然伝わらず首を横に振られるばかり。
諦めて英語に切り替え、駅のチケットカウンターでこれから1年住む場所への片道切符を買う。ホームが分からず訪ねた駅員さんはどこかけだるそうに「あっちだ」と答えてくれた。


電車に揺られ到着した街は思いのほかこぢんまりとしていた。
街の中心地には有名なクラシック作曲家の銅像が立っていて、観光客だろうか、写真撮影をしている。
市場には色鮮やかな野菜や果物が煩雑に積み上げられたように並び、おじさんが大きな声でなにか叫んでいた。


30分も歩けば全体を回れてしまうちょうどいい大きさの街は、活気にあふれているものの騒がしすぎず、とても落ち着いていて、住みやすそうだった。

街を少し歩くとパステルイエローのとても大きな建物に出会う。ここが1年間通う大学。
ここに来る前にドイツ語の先生が「校舎はもともとお城だったんだよ」と教えてくれていた。
校舎の前に広がる芝生にはお昼からサッカーをしたり本を読んだり、それぞれが思い思いの方法でおひさまを楽しんでいる。平日にもかかわらず、働き盛りの年齢のお父さんが子どもと遊んでいたりもする。のびのびとした時間が流れていた。


そこでの生活は日本では決して見られないこと、体験できないことであふれていた。
電車やバス、歩いてでも越えられてしまう国境。
気が問くなるほど複雑な装飾が施された教会。
夜9時まで明るい夏や、夕方4時には暗くなる冬。
クリスマスの時期になると、街中がクリスマスマーケットで売られているホットワインのシナモンの香りでいっぱいになる。
年越しには新しい年を祝って川のこちら側とあちら側から花火をはなつ。
全てが新鮮で楽しくて、毎日出会える新しい発見はここでの生活を飽きさせなかった。



ゆっくりと流れる毎日の時間も、そこに住む人の適度にてきとうな性格も、挑戦を繰り返す毎日も、日本にいたときはどこか「窮屈だ」と思っていた私には、のびのびしていながらも、メリハリのあるこの地の生活がとても性にあっていた。
「このままじゃだめだ、もっとしっかりしなくちゃ」と思っていた私を、「あなたのペースで生きていいよ」と肯定してもらっているようなやわらかなあたたかさを感じさせてくれた。

そんなふうにのんびりと、でも、着実に1年という月日は過ぎていった。

そして、さよならのあの日を私は絶対に忘れない。

この国に着いたときは聞き取れも、話せもしなかったドイツ語は、切符を買うことなんて朝飯前なくらい上達していた。駅のホームで自分が乗る電車がどれか迷うことなんてもうないし、市場のおじさんが叫んでいる言葉の意味も理解できるようになっていた。

1年間お世話になった友達に、街に、さようならをいう瞬間、思わず涙がこぼれそうになってしまった。心配をかけたくなくて、あふれそうになる涙を必死に我慢する。

大きなスーツケースとボストンバックに本や荷物を詰め込んだおもい荷物を「どこまで行くの?」といってホームまで運んでくれたお兄さんも、
電車の中で「どこまでいくの?」と話しかけてくれたおばあさんも、
まるで最後の日だからとみんな優しくしてくれているように感じて、さっき我慢したはずの涙がじわりとうるんでしまう。

言葉が通じないが故にうまくいかないことが多くこっそり部屋で泣いた夜もあった。
留学中に卒業してしまう大学の同期の卒業式の楽しそうな写真を見て今すぐ日本に帰りたいと思ったこともあった。
それでも、悔しかった思い出、悲しかった思い出よりも、あたたかい思い出や楽しかった思い出の方が勝ってしまう。

そんな思い出たちはそんなに昔の話でもないのに、今や「一晩の夢だよ」といわれたら信じてしまいそうになるような、ふわふわとした感覚になってしまった。
夢から覚めたあとのようなふわりとした記憶の中に、向こうでできた友達も、異国の言葉で笑いあった日々も、悔しくて泣いた夜も、全部ぜんぶ、確実に私の中で生きている、住んでいた軌跡がしっかりと残っている。そんな不思議な感覚。

帰国後、「なぜドイツだったの?」そう何度も聞かれたけどその答えはいまだに見つかっていない。いつも、「なんでだろうね。たまたまかな。」そう濁している。
実際にドイツという国を留学先に選んだのに深い理由はなかった。
大学の親友の妹がたまたまワーホリに行っていたとか、幼いころから習っていたピアノのおかげで大好きだったクラシックの作曲家がたくさんドイツで生まれていたとか、そんな小さな「縁」がつなぎ合わせてくれたんだろうと思う。もしかしたらドイツに行くのは必然だったのかもしれない。と思いあがってしまいそうになる。

「親友」と呼べる国。ドイツ。
たくさん言い合いをして、けんかまでしたのに、何かあったら一番に会いたくなってしまう。ひとつの「国」に対してこんな感情を抱いたのはこれが初めてだった。
住んでいるうちに、国内を旅するうちに、「ドイツ」という国が私にとっていいところも悪いところも全部知っている大好きな親友になっていた。

実はまだあれからドイツの地を踏めていない。
あの不愛想なスーパーの店員さんも、遅れて到着するのが当たり前の電車も、優しい人々も…。気が付くと恋しくなってしまっている。

なにかに迷ったらこのさきもきっと、私はここに帰ってくる。
私にとって唯一無二の「親友」。またすぐに会いに行こう。

ライター

愛優

ドイツに恋した自由人。旅を撮ったり、旅を書いたりしています。食べることや寝ることやお酒を飲むことが大好きな、ずぼらでめんどくさがりやな旅人。絶景を見つけたら足が止まります。猫を見つけたらあとをついていきます。旅の中のマイルールは、その国にまた戻ってきたくなるような「後悔」を1つだけ、あえて残すこと。旅と生きていきたい。

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