社会人一年目。逃げるように旅をして見つけた、自分にとっての幸せ。

2019.02.06

掌の中に、自分自身を取り戻したかった。バックパックを背負って飛行機に飛び乗ったのはたったそれだけの理由だったように思う。半ば泣きそうになりながらパスポートを握りしめて崖から突き落とされたように日本を離れた。もう、呼吸もできないとばかりに「ここ」にいることが苦しかった。ここではない「どこか」に一秒でも早く連れ去って欲しくて、そんな私を見かねたようにお腹の底から轟くエンジン音は私を空の向こうへと押し出してくれた。

 

桜が咲く4月、社会人になった。楽しみにしていた社会人生活。桜の木の下でスーツを着て同期と一緒にピースをする私はどこまでも健気に無垢に、この世界の「正解」を信じ切っていた。

 

でも現実は、日に日に私から表情を奪っていった。青空を見る時間が無い生活と、毎日同じ場所へ同じ人と同じ事をし続けるからくり人形のような生活を送る自分に耐えられなくなる。朝の満員電車に乗り、仕事をし、帰宅をするという一連の流れに覚えた違話感は、次第にじわじわと身体を虫食みこころを殺した。

 

でも、学生の頃は社会人になったら「みんなと同じように」それができると思っていた。だからこそ我慢をした。着飾った「会社員」という看板だけがどんどん月日に流され、空っぽになっていく自分自身。こんなにも広い世界で、たった独り取り残されたような虚無感。日曜日の夜になると明日が怖くなり、なかなか部屋の電気を消して目をつぶれない日々が続いた。

 

「ふつう」に会社に行き仕事をすることさえもできないという自己嫌悪に打ちのめされ、頑張りたいけど頑張れない…と呟いたが最後。朝、涙が溢れとうとうベッドから起きることさえもできなくなってしまった。

 

会社を休み、そしてもぎ取るようにタイ行きのチケット買った。それはもう、すがるように飛び乗った飛行機だった。

「こんばんは!」

 

すっかり日が暮れたバンコクで迷いながらやっと辿り着いたゲストハウス。

中に入ると、一瞬で友達ができた。

 

「あなたは誰ですか?」「どんな人生を生きてきたの?」

 

そんな質問を繰り返しながらどんどん距離が縮まり、ビールを片手に夜風に吹かれながらみんなで笑いあった。びっくりするような人生経験を聴いたと思えば実は地元が一緒だったり。広い世界を自分の足で歩いている現実味が帯び始めると、ついこの間までスーツを着てかかとを鳴らして歩いていた自分がここにいることに不思議でたまらなかった。

 

次の日の朝、昨夜のお祭りのような余韻は欠片もなく、静けさと朝の白い光が部屋いっぱいに広がっていた。辺りを見渡すと今朝早くに別の場所へ出発をする人と今日から宿泊する人が入れ混じり、さようならとはじめましては季節や天気が移り変わるように優しさと残酷さを兼ね備えながら私たちを待つことなく繰り返されていた。

 

ぽつりと一滴、心に寂しさが襲う。自分の居場所が分からずに何者にもなれない漠然とした不安は日本からそのまま背負ってきたようだ。寂しさをのろのろと引き連れてシャワーを浴びる。外のテラスにちょこんと座ってドライヤーで髪を乾かすことにした。

 

すると、なんでもないただそこにある朝は、あまりに輝いていて、ふふっとひとりご機嫌になってしまうほどに綺麗だった。ありのまま、そのままの姿でひとつひとつが生き、きらきらとゆっくり呼吸をしていた。

 

”こんなに透明な風が吹くのなら”

 

ふわり髪を風が撫でる。朝日がつくる木漏れ日。ギターの音と風のやさしさが、寂しさも一緒に生きてあげてと囁くようだった。

 

そんなとき、「ひとり旅?」そんな元気な質問が辺りを飛び交った。

 

初めましての挨拶を4回繰り返せばもう完了。「じゃあ4人でアユタヤに行こうよ!」と朝一番に世界遺産を見に行く冒険が決まる。

 

思いがけない出会いに自分達でもふふっと笑ってしまうほど浮足立っていた。信号のない道路を猛スピードで走る車。その間を縫うようにやっとのことで渡れただけで可笑しくてケラケラ笑った。駅に着き、少しの不安と興奮に任せて「チケット4枚!」と自分達で行き先を手に入れた。ワクワクに心が落ち着かずこれから始まる冒険が待ちきれなかったし、やっと動き出したかと思えばさぁ頑張って走るよとばかりの錆びだらけの列車に「なんだこれ!」と言いながら目を輝かせた。

 

日本から離れてこれ以上ない笑顔で笑う私たちと、毎日の学校や会社での不安の中をしっかり生きている私たち。どれも本物で、どの感情も引き連れてこの国に来た。答えが見つからなくてもいいからと旅にでずにはいられなかったそれぞれの想い。この一瞬の刹那的な旅が、この先の人生、自分だけのレールを堂々と生きるための糧になりますように。そう願わずにはいられない。

 

鉄格子だけのトゥクトゥクは猛スピードで街を切るように走る。手も足も放りだし風に身を預けて何かを振り払うように笑う私たち。

 

”「ひとり旅」って、独りじゃないからいいよね。”

 

そうして日々は過ぎ、やっと肩の力を抜いてこの国に溶け込むように歩き始めたころ、私はバンコクへ別れを告げ一人チェンマイへと移動した。

 

 

ここへ何しに来たのかと問われれば「何もしたくないから来た」とでも答えようか。

 

チェンマイはバンコクに比べたら田舎だった。独特の匂いもなければひしめき合う人や車の勢いもない。流れるのは、ここにいていいんだよと包み込むように頬を撫でる風。敵にも味方にもならないただそこにある世界、それだけだった。

 

平成最後の夏なんて言葉はもう日本では使われなくなっているだろうか。10月だというのに真っ赤に日焼けをする肌。旅をしながらだんだん化粧をしなくなり日焼けも気にならなくなった。

 

人からの見られ方を気にしていたおしゃれ。でも、素顔のままそのままの自分の喜怒哀楽がこんなにも心地よく世界を彩るなら、他人の目ではなく自分の好きな服を着て好きな場所へ行って好きなことをして生きようと思った。それができて初めておしゃれを楽しめるのかもしれないと、普段なら買わないペラペラの黄色いワンピースにお気に入りのイヤリングをつけて「とびきり自分が”好き”な自分」に変身する。

 

 

そして私は、この街で暮らすように書いて旅をすることにした。朝、美味しい珈琲を求めお散歩をする。ときめくカフェを見つけてはそこでひたすらに文章を書いた。ブログに、手紙に、ノートの切れ端に。時にぐちゃぐちゃになりながら、時にさらさらとした感情を、言葉にしてひたすら自分と向き合った。

 

”大変だけど、好きだから、やりたいことなんだ”

自分の中で書くことが大きな存在になった瞬間だった。

 

そうしてくたくたに疲れ果てて帰ってくる私を迎えてくれる日本人宿ゲストハウスは本当に居心地がよかった。

 

ゆたりゆたりと流れる音楽に風がさらさらと流れる。なにをするわけでもない、ここでひとり、またひとり。それぞれに笑い、食べ、寝て、一緒に時間を過ごしたり過ごさなかったり、世界の端っこに来たような感覚と里帰りをしたかのような感覚。

 

誰がどこでなにをどうしようと、その人の自由。受け入れることと主張することのバランスが上手にとれるこの空間。戻って来る場所に安心するから、今日もまた冒険を始められるように思う。入り混じってぐるぐると渦を巻き、晴れも雨も愛でるようにここで過ごす。

 

 

風が好きだ。本当に、好きだ。

窓やドアの無い爽快に走るソウテウに、こんなにも身軽に生きれるのならもうなにもいらないと本気で思わせてくれるこの街に、なにもしない幸せという魔法をかけられたみたい。

 

向かったのは、街外れのバーンカーンワットと呼ばれる場所。ここには雑貨やカフェやアトリエが立ち並ぶ。

 

着いた途端、わっとこころに彩りが咲く。小さな森の中に迷い込むに一歩一歩、目を輝かせて歩き始めたかと思えば、しまいにはなぜだか泣き出してしまうような足取りになる。小さな宝物を拾い集めるように、ときめきで息をすることを忘れてしまうくらいに興奮していた。

 

”ああ、もうしゅわしゅわと溶けてしまいそう。”

 

好きな場所で、好きなことをするって、こんなにも幸せなんだ。

 

”心地いい。”

 

そんなことばが一番ぴったりなこの街で、幸せをみつけるのがどんどん上手になる。

 

広がる草はらに四葉のクローバーをそっと摘むように、やわらかくやさしい、ふわりさらさらとした時間の流れ。人に優しくしようとか、人に思いやりを持とうとか、それはもう、ここへ来てじぶんを満たしてあげればとても簡単にできることなんだと肌で感じる。

 

”自分が幸せでないと、人を幸せにすることはできないよ”

 

この国の、この街に流れる時間と出会う人、ぶらり立ち寄るゆるやかな空間がそっと囁いた。

 

この旅で、人生が変わったかと言われればそんなことはないと思う。それでも、余計なものが剥がれ落ち、残ったのはただ一つ。旅を愛する自分と共に生きていこうとする自分に出会えたこと。それは紛れもないこの旅で見つけた、自分にとっての特別な四つ葉のクローバーなんだ。

 

みさとん

’96年生まれ 新卒で会社を辞めた駆け出しの旅するフリーライター。人が夢や想いを叶えるための架け橋となる書き手を目指しています。夢は世界中の人の夢を聴いて取材をしながら世界一周をすること。学生や20代の生き方の選択肢を広げたく自身noteで取材連載(Dream Bridge-夢取材ノート-)を始めました。現在お仕事募集中です!

note:https://note.mu/misaxx222

Twitter]https://twitter.com/misaxx222

一覧へ戻る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

一覧へ戻る

RELATIVE POSTS

Page Top

FOLLOW US

INSTAGRAM

ABOUT

旅行会社旅工房が、「旅」とはなにかを見つめていくWEBメディアです。
旅の作り方、旅の探し方、旅そのものが大きく変わり始めた今だからこそ、
私たち旅工房は、時に出会い、時に挑戦し、時に感動し、時に考えながら…
まるで旅をするように、「旅」を見つめていきます。

MEDIA