
「明日、海に行かない?」
ハワイ旅行最終日を翌日に控えた、天ぷらパーティーで。
出逢って2時間目くらいに彼が何気なく言ってきたことが全ての始まり。
前年の転職休みでハワイに10日間の旅行をして以来、わたしはすっかりハワイの虜になった。
気候が良く、どこに行ってものんびりした空気と人。お米がアメリカの中でも特にポピュラーで食が日本人に合う。日本語が街の中にあふれているのに、ちょっと買い物したりレストランに入れば、アメリカンカルチャーで満たされている。
肌馴染みがすこぶる良い海外というのが、日本人をここまで魅了するのだろうか。
転職して無事に働き始めて職務にも慣れた頃、また行きたいなと思っていたら、関空発ホノルル行きの LCCセールを発見。東京から関西へのフライトを含めても往復5万円という安さに惹かれて、仕事中にも関わらずチケットを買った(実は上司が見ていたらしく、一生分くらい嫌味を言われている)。
ひとりでの渡航だったので、宿はAirbnbにして、ワイキキから離れた住宅街にした。
そこで彼と出会った。同じAirbnbに宿泊するゲストが主催した天ぷらパーティーでのことだった。
ナチュラルな日本語を話す彼は、実はアメリカ国籍の日系アメリカ人。英語のほうが得意だと言う。
何を話したのか正直覚えてないけど、居心地が良くて、楽しかった。
パーティーもお開きというとき、今日はカイルアに行ったのだと彼に話したら、彼が「カイルアなら連れて行ったのに」と言う。
アメリカ人って特に理由もなく女子を海に連れて行くのか、と思いながら適当に会話していると、冒頭のセリフを言われ、いつの間にか海に行くことになっていた。
翌朝、水着を仕込んで彼オススメのビーチに出発。行き先はハナウマベイというシュノーケルスポット。
昨晩であったばかりの男性と、翌日には海に行って水着をさらすなんて面白すぎる展開だが、彼の車の中での話が面白くて、そんな細かいことは気にならなかった。
彼はハワイに仕事の都合で本土から引っ越してきたばかりで、Airbnbに滞在して家や車を探しているところだったらしい。
到着して、想像以上の青い海に目を奪われた。
ワイキキやアラモアナのビーチも十分綺麗だが、海を斜め上から見下す開放感のあるビューがより気持ちいい。
シュノーケル初心者のわたしでも、驚くほど浜辺に近いところで魚と一緒に泳ぐことができた。写真と映像を残したい! と思ってiPhoneXをそのまま海に入れて、早々に壊したのだけは苦い思い出になっている。
彼はシュノーケルの仕方を教えてくれたし、海でスマホを壊すという失態をしたわたしをApple Storeに連れて行ってくれたりもして、完璧すぎるエスコートをしてくれた。
一度家に帰ってからも、わたしが予約したサップヨガに行くといえば、送り迎えをしてくれた。アメリカ人はレディファーストを骨の髄まで染み込まされているのだなあ、と思っていた。この時は。
翌朝、午前便での帰国だったので、Airbnbのファミリーやその時のゲストたちが全員で見送りしてくれた。
彼はこの時もわたしを送ると言って、わざわざ車を出してくれることになっていた。
その時、彼はファミリーに向かって「(君は)4ヶ月後に戻ってくるもんね!」と確定的な言い方をしていて、わたし含め周りを驚かせていた。
次に来るとしたら、4ヶ月後くらいかな、などと話してはいたものの、これから行ってみたい旅先がたくさんある中で、ハワイの優先順位はとても低かった。
空港までのハワイラスト1マイルを何気なく過ごし、わたしは帰国した。
だけどわたしは、彼とLINEのやり取りをする中で、再びハワイに飛んできてしまった。
また、彼はわたしを空港に迎えにきてくれた。
2度目のハワイでは、彼のバケーションと自分のバケーションを合わせ、約1週間、同棲しているかのような毎日を過ごした。
朝は彼の作るアメリカンブレックファストを食べ、昼は外で、夜は外食の時もあれば、デリを買って家で食べることもあった。
グルメな彼の一押しのポキを買いにハワイローカルスーパーのフードランドへ。
味見をしてから好きな味を選べるのがアメリカ流。2種類買って、彼が家で炊いておいた白ごはんと一緒に食べくらべた。
ちょっとブランチに、という時も歩きではなく、車で行く。東京で電車を乗り継いで生活し、免許も持っていないわたしには、海外ならではの新鮮な体験だ。
どうしても行きたかったレジェンド・シーフードは、ホノルルのチャイナタウンの中でもローカルチャイニーズでびっしりと埋まっている店。店の雰囲気だけで美味しいのがわかる。
甘い点心は後から食べようと思って、甘くないものから先に注文した。
小籠包は日本で一般的な、肉汁が溢れる台湾スタイルとは少し違うが、肉肉しくて美味しい。エビシュウマイなどの海鮮系はやはりというべきか、これもまた美味しい。
甘い点心欲しさにチャイナタウンにきたわたしだったが、シュウマイや小籠包で結構お腹いっぱいになり、大好きなエッグタルト、カスタードまんを目の前に手が止まってしまった。
彼が会計をしている時、隣の席に着いた女性は最初から甘い点心を頼んでいて賢いなと思った。彼が感心して話しかけたら、女性は「好きなものは最初に頼まないとね!」と言っていた。
2人して苦笑いしながら、食べきれない点心はおやつに持ち帰った。
あまり予定は決めないタイプの彼が、唯一、土曜日は絶対にここに行くよ! と最初から決めていたのがベローズ・ビーチ。
平日は米軍の演習場だが、土日は一般開放されるというローカルのとっておきのビーチだ。
彼は休みに気が向いたら、一人でもここにきてぼーっとしたり、ボディボードをしたりしているらしい。
海につづいて、今度は山へ。カイヴァリッジ・トレイル。ハワイに何度も行っている人のオススメだ。
起伏に富んでいて、トレイルとしてはまあまあハードな場所だが、それを抜ければカイルアの美しいビーチ、住宅街、青い空、それを全部独り占めできる。
アクティビティそのものはあまりお金をかけず、時間を贅沢に使うことがハワイローカルらしい過ごし方。彼のゆったりした感覚に合わせるうち、自分もハワイローカルであるかのような気持ちに少しずつなっていった。
最終日は、スカイ・ワイキキのルーフトップバーへ。
2人でいつもよりおしゃれして、デートみたいだね!と言うと、そうだよ、とはにかんで目線を外す彼が愛おしかった。
お店がオープンする17時に彼が予約してくれた。
料理を待っている間に夕日が沈んで、なんとも言えないワイキキの美しい夜景を堪能できる。あまり高い建物がないのも見晴らしの良さを助けている気がする。
そっと乾杯して、見た目にも美味しい料理と共に彼とゆっくり時間を過ごした。
あまりにも美しすぎるワイキキでの夜の後、彼と家に帰った。
1週間、あまりにも自然に一緒にいたものだから、24時間後にははるか6000キロを隔てているなんて信じられない。
お互い好きであるとはっきりしている以上、これからのことを話し合う必要があった。
彼の口から出たのは意外な言葉だった。
「俺たち、付き合うのは名案じゃないと思う」
怒りとか悲しみとかいうよりも、その全部の感情がぐちゃぐちゃになった気分になった。
ただ、彼のいうことは理性ではよくわかった。今まさに数年がかりの仕事の研修中で、仕事一辺倒の人生を送っている彼にとって、時差も距離もあるとコミュニケーションはLINEを打つ程度になってしまう。
俺と付き合っても、彼氏として何もしてあげられない、幸せにできない。他の人といたほうが君が幸せになれるよ、と言われた。
正直、今までのコミュニケーションも1日1回程度やり取りのことも少なくなかったし、1週間音信不通状態になることもあった。わたしはそれでもよかったし、精神的な繋がりが明確にあると信じられる今の方が、同じコミュニケーションレベルでもずっと深いと思えるのに。
第一、「好きだけど付き合えない」なんて言葉でも態度でも示されることの残酷さを、彼はわかっていたのだろうか。
結局、若干感情的になりつつも、彼のいうようにステディな関係にはならず、ハワイにくる以前同様の、「友達以上、恋人未満」のフラットな関係に戻ったのだった。
帰国後、冷静になって彼と話をする中で、電話のなかで1つの質問をしてみた。
色々あったけど、わたしのことを今はどのように思ってくれているの? と。
「それを今言ったら、ずるいじゃん。一緒にいる間、たくさん言ったでしょ。」
その言葉に全てが詰まっていて、なんでハワイという場所で彼と巡り合ったのだろうか、なんでわたしは日本にいるのだろうかと、運命に爪を立てたくなった。
美しいハワイで、自分史上最高の恋をした。
平成最後の夏がこの瞬間、ゆっくりと幕を引いていった。

よねぴー
転職休みの一人ハワイ旅行で海外旅行にドハマリし、2017年、2018年と続けて海外に7回渡航。週末中心の弾丸旅行の中で、海外のローカルライフを満喫するのが趣味。